現在こそ楽曲に名前がつくのは当たり前ですが、ベートーヴェンは自身の楽曲にタイトルをほとんどつけませんでした。実際、「三大ピアノソナタ」を見ても、「悲愴」以外の「月光」と「情熱」はベートーヴェンの命名ではなく、後々に別の人物がつけたものになります。32曲のソナタ全体で見ても、彼が命名したのは、今回の第8番「悲愴」と第26番「告別」の2曲のみです。
彼が「悲愴」というタイトルを冠した理由は様々な憶測があります。ベートーヴェンは難聴として知られていますが、「悲愴」の作曲当時に耳が聞こえなくなる症状が出始め、そういった背景をこの作品に重ねたという見方もあります。
ただ、「悲愴」に対応する「Pathetique」という単語は、今の辞書で調べると「崇高」という意味も出ます。
楽曲をよく聴いてみると情熱的な部分や光を感じる部分もあることから、単なる深い悲しみというよりは、生きるために頑張ろうという、積極的な意味を見出す見方もあるようです。
私はこの曲を演奏するとき、冒頭の旋律でメロディーが上昇していく音型には、何か希望に向かって手を伸ばすような、そんなイメージを持っておりまして、そこにはなるべく思いを乗せて演奏できればと思っています。