スタジオジブリ映画の長編作品『風立ちぬ』のコピーは“生きねば。”でした。度々起こる震災や自然災害、世界中を震撼とさせる疫病の蔓延、国と国の争いなど、混沌とした現代を生きる人々の胸にも深く響くメッセージのように聞こえてきます。主人公の航空技術者、堀越二郎は、後に神話と化した零戦を完成させた実在した人物。そんな映画の主題歌は、1973年にリリースされた荒井由実の1stアルバムに収録されていた「ひこうき雲」です。映画の世界観と通じるところがあるということで起用されたこの歌には、空高く長く尾をひいて流れ、いずれは消えていくひこうき雲になぞらえた独特な目線と生死感、そして“生きる”という大切なメッセージが込められているようです。やや短調寄りの愁いを秘めた湿度の高いハーモニーが特徴のアレンジで、全体に音数を削り込んで磨きをかけ、1音ずつの重みを持たせ、音域を広く取ることで空の高さを表現しました。いかにも“ジャズ”というのではなく、時折現れる原曲にはない緊張感のあるハーモニーに、ふと“何か違う”と感づいてもらえて、絶妙な感覚をお届けできたなら嬉しいです。