
人は「今」を起点に、「過去」と静かに対話することによって、己の「未来」を見ようとするものだと思っています。
作品のタイトルは、『大分西国巡礼歌』と古謡『さくら』を素材としたことによります。特定の情景や音を描写することを意図してはいませんが、「過去」と静かに向き合いながらも、「未来」に向かって歩もうとする人々の姿や苦悩、葛藤が映し出されているかもしれません。ただ、私自身、これら二つの「過去」と向き合うことで新たな道を切り開こうと模索したことは確かです。そういう意味では、ここに映し出されているのは私自身であり、この作品を書くことが私にとっての「巡礼」だったのかもしれません。(初演時のパンフレットより)
2015年夏、田村洋彦氏(大分大学名誉教授)から、氏が主宰するグループ『息吹』のコンサート「ふるさと大分の響き」に作品を出してみないか、と声をかけていただきました。コンサートの主旨は、「大分の民謡や大分にまつわる曲を新しいアレンジで披露する」というものでした。氏から多くの資料をお借りし、作品の核となる楽曲を探している中、特に私の目を惹いたのが『大分西国巡礼歌』という歌でした(この歌に惹かれたのは、前年に、「篠栗四国八十八箇所」として知られる福岡県篠栗町を舞台に『讃
~吹奏楽のために』という作品を書いていたことも影響しているかもしれません)。現在、この歌を知る人はほとんどいないのではないかと思います。参考となる音源もなく、研究者により採譜されただけの歌をどう再生させるか…、大きな課題を自らに課すことになりました。
間もなく春が訪れる…そんな時期に開催されるコンサートです。何か春を感じさせる素材を加えたいとも思っていました。結果、誰もが知る古謡『さくら』をもうひとつの核として用いることとなります。そして、『大分西国巡礼歌』と『さくら』に共通の音階構造(都節音階)に基づくいくつかの音素材を加えて全体を構成しました。
作品の構成は以下の通りです。
序:『大分西国巡礼歌』と『さくら』を予感させます。
[A]:モノローグ
[B]-:『お遍路さんの歌』(都節音階に基づく創作)と『さくら』
[E]:モノローグ
[F]-:『大分西国巡礼歌』
[H]:モノローグ
[I]-:展開部(都節音階に基づく5音音列の提示と展開を含む)
[O]:モノローグ
[P]:終結
初演は2016年2月13日(土)、ホルトホール大分において、朝来桂一(ヴァイオリン)、辛島慎一(チェロ)、後藤秀樹(ピアノ)の3氏により行われました。
(正門研一)