ピアノソナタ第2番「徳山村の記録」作品220 (近藤 浩平) / ピアノソロ 上級

岐阜県にかってあったダムに沈んだ村、徳山村をテーマにしたピアノソナタ。杉浦菜々子による初演は東京新聞、中日新聞夕刊1面で大きく取り上げられた。初演は大変好評でピティナ公開録音で、諸井三郎のピアノソナタ第2番とともに再演が決まっている。

舘野泉、智内威雄、福間洸太朗など多くのピアニストに左手のピアニストに「海辺の雪」「海辺の祈り」など左手のピアノ作品が演奏されてる近藤浩平の初の両手のためのピアノソナタ。

ピアノソナタ第2番「徳山村の記録」
～杉浦菜々子のための4楽章のソナタ～作品220

作曲期間：2023年6月10日～8月20日

委嘱：杉浦菜々子、藤本辰也

第1楽章（9分）　　　　　
第2楽章（2分30秒）
第3楽章　徳山村への哀歌、沈める村（6分）
第4楽章　徳山村への哀歌、源流の村（7分)
演奏時間約25分

4つの楽章からなるピアノソナタ。
近藤浩平のピアノソナタとしては第2作。
前作の「左手の為のソナタ『高層湿原への旅』（ピアノソナタ第1番）
～舘野泉のために～　作品134　
は、舘野泉と左手の文庫の委嘱作品により2013年に作曲され、2014年9月28日に長野県小海で舘野泉のピアノで初演されている。
両手のピアノのためのピアノソナタとしては今回初演する第2番が初めての作品となる。

ピアノソナタ第2番「徳山村の記録」　作品解説

このソナタの第3楽章は、「徳山村への哀歌、沈める村」、
第4楽章は「徳山村への哀歌、源流の村」との副題が付けられています。
徳山ダムは、岐阜県木曽川水系揖斐川上流に2008年に完成した巨大なダムである。貯水量は浜名湖の水より多いという。このダムの建設の為、徳山村は全ての人が離村し地図から消えた。
有名な観光地、景勝地以外の多くの日本の山村の自然と生活は、この数十年の間に都会人の目につかないところで、次々と消えてしまっている。
私がこの村の最奥の冠山を登山した帰路に訪れた時には、すでに離村が済み、湖底に沈む部分の樹木は無惨に伐採され、水をためる前の荒涼とした風景だった。
この村の最後をとらえた増山たづ子さんの素晴らしい写真集がある。

徳山ダムが完成した2008年にオーケストラ曲「徳山村への哀歌、沈める村」と「徳山村への哀歌、源流の村」を作曲した。様々な作曲コンクールなどに応募したりオーケストラ関係者にコンタクトしたりもしたが初演される機会がないまま現在に至っている。この作品は、徳山村という一つの村が沈んだということがきっかけで作曲したものではあるが、過疎などで急速に失われつつある日本各地の山村の暮らしそのものについての愛惜の音楽でもあります。
かって、学生の頃に訪れた山村で多くの人が暮していたところが、近年、再訪すると過疎や高齢化で廃屋と荒れ野となった耕作放棄地で荒涼とし、村の祭りなども維持できなくなり、生活の文化も急速に失われつつある。
日本の山村の音楽の感触のある旋律と、それをあるときは脅かすように、ある時は穏やかに包むように、ある時は痛切な愛惜と怒りと不安を表出するように、あるときは、はるかな時間の不思議さを喚起するように響く音響が交錯する。

このオーケストラ曲「徳山村への哀歌」は音になる機会もないまま15年が経過し、そのまま、知られることなく埋没していたが、私は、なんとしてもこの音楽は、日本各地の消えゆく山村の文化を意識するものとして社会に送り出すことが必ず必要な音楽だと考え続けてきました。

そこで、今回、日本人作曲家の作品を数多く演奏し、私のピアノ音楽の最大の理解者である杉浦菜々子さん、茅ヶ崎で数多くの日本の作曲科の作品を含むコンサートを開催してこられた藤本辰也さんから日本を代表するようなピアノソナタを書いて欲しいとの委嘱をいただいき、この「徳山村への哀歌」の素材をピアノ音楽に発展させた楽章をもったピアノソナタという構想が生まれました。

私は、ここ10年以上、智内威雄さん、舘野泉さんをはじめとした左手のピアニストのための左手のピアノ作品を数多くてがけてきました。
左手のピアノ音楽の探求で発見してきた左手だけで豊かに響くピアノの響かせ方、ピアノ書法をあらためてこの両手のピアノソナタの中に取り込んで拡張する試みも行っています。

初演
2023年12月3日
ピアノ：杉浦菜々子　

近藤浩平
http://koheukondo.com